医療現場におけるロボット(AGV)活用方法の考察

(株)日本シューター

第一営業本部 システム営業部

https://www.nippon-shooter.co.jp/

 

<はじめに>

医療現場が抱えている問題に、新興感染症拡大により患者だけではなく医療従事者の感染が増えることで、救急患者の制限や通常の診療行為や手術が出来ないといった深刻な医療崩壊が懸念されている。又、人手不足も相まって大きな社会問題となっている。人に代わって仕事をするロボットは、これらを解決する一つとして大きな期待が寄せられている。近い将来には、映画で登場するロボコップやターミネーターといった人間と同じような、又はそれ以上の頭脳(AI)をもったロボットが誕生すると思われる。
 歴史的に見てみると、最初は製造ラインの設備としてロボットが開発された。その後、モノの選別・ピッキングや包装するハンドリングマシンも出現し、医療現場でも手術支援ロボットといったマシンが実用化された。一方、人の足の代わりに自動で走行するAGV(注1)が出現し、ハンドリングマシンと合体したロボットも出てきた。私たちの生活圏の中でも、配膳ロボットや受付ロボット、清掃ロボットなど目にする機会も増えてきたことからも、その期待度は日々大きくなっている。本稿では、前述した問題の解決手段として注目されているAGVの最新事例と今後の医療現場での使われ方について考察する。

1.産業界では、いち早く物流業務の自動化にAGVが導入された

AGVの歴史は古く、初めて登場したのは1950年代初頭で、米国にて物流業務の自動化設備として実用化された。日本では、1970年代から主に工場内や倉庫で導入された。1990年には、モノを搬送するだけなく部品や製品が保管されている棚から“必要なもの”を“必要なだけ”自動的に取り出し搬送するAGVが出現し、24時間稼働できることから省人化と共に生産性が大幅に向上した。誘導方式は、床面に誘導体を設置しそれに沿って走行する方式(電磁誘導や磁気誘導方式)が中心であったが、その後、画像認識方式(天井や床に設置した二次元コードを読み取り走行する方式)やレーザー誘導方式(壁や床面に設置した反射板にレーザーを反射させ走行する方式)等が開発され、システムの自由度は飛躍的に向上した。最近では、SLAM誘導方式(注2)というカメラやセンサーを使ったシステムが開発され、従来、必要とされた誘導体が不要になり自己位置を確認しながら目的地までの走行ルートを自動で作成し、障害物も検知しながら走行可能となった。これにより、オフィスビルや公共施設などの有人環境下でも実用化が始まった。・・・自律型走行AGVの誕生/別名AMR(注3)

2.医療現場でのAGV導入状況

医療現場でのAGVは、2000年頃から導入が始まった。当時のAGVは誘導体(磁気テープ)を床に貼る「電磁誘導式」が主流であったが、設置するには多くの条件があったため、導入は限定的であった。給食の配膳カートの搬送や手術室から中央材料室へ使用済み器材の搬送が中心であった。(人と交わらない専用ルートでの走行)

3.当社が開発したAMR(商品名 MoCS)の紹介(図1)

当社グループでは、1979年以来AGVを世界各地で6000台以上を製造販売してきた。又、創業1952年以来、様々な病院内搬送設備を独自技術で開発してきた経験を活かし、最新のAMR(以下MoCS)の実用化に成功した。最大の特徴は、誘導方式に最新のSLAM方式を使い、搬送駆動部に当たる“ムービングユニット”とモノを収納する“カートユニット”や人の手の代わりになる“ハンドリングユニット”を分離することで様々な用途に対応できるようになった。これにより、現在使用されている手動カートにも対応できることで、様々な使い方が可能となった。又、中央監視システムでは、全てのロボットの作業状況が監視できるので安全性も高まった。

全国自治体病院協議会,賛助会,感染対策

<参考運用事例>

@SPD業務の自動化(保管・ピッキング・搬送)(図2)
単にモノを搬送するだけでなく、治療に必要な薬や診療材料を保管している棚から在庫管理システムを通して、“必要なモノ”を“必要な数・量”を自動的に取出し、“必要場所”まで搬送することが可能となる。
A他設備との接続(図3)
中央材料部での自動洗浄機や高圧蒸気滅菌機をMoCSと接続することで、使用済み器材が入れられた容器を自動で洗浄機や滅菌機に投入することができるため、効率化・省人化が図れる。
病棟・外来採血室等からの検体搬送では、MoCSを使うことで、自動的に検査部内の検査ラインに検体を投入することが可能となる。
B感染対策(図4)
入退室制限ゾーンへの自動搬送だけでなく、入退室制限ゾーン内での人との協働作業が可能となる。(患者さん見守り・巡回警備、消毒・殺菌、患者との対話等)
特に入退室制限から出ることなく働ける自律走行型AMRであるMoCSは、大きな効果が期待される。

4.おわりに

人に代わる搬送ロボットは、感染対策や労働力不足に有効な手段であると考える。然しながら投資に見合う導入効果を得るためには、システムが最大限効率的に稼働できることが重要である。特に院内全体を走行させる搬送ロボットは、その動線計画(人との動線・エレベータとの連動計画等)は非常に重要となる。建物や現在の作業のやり方にシステムを合わせることではなく、院内全体を俯瞰し今の作業の見直しも含めた最適な運用計画を立てることが重要であると筆者は考える。

 

 

注1: AGVとはAutomatic Guided Vehicleの略称で、無人搬送車もしくは無人搬送ロボットのことを指す。
注2: SLAMとは、Simultaneous Localization and Mappingの略称で、“Simultaneous=同時に起こる”、”Localization=位置特定”、”and=と”、”Mapping=地図作成”となり、「位置特定と地図作成を同時に行う」という意味を指す。
注3:AMRとはAutonomous Mobile Robotの略称で、自律走行搬送ロボット・自律型共同ロボットを指す。


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