感染対策
新興感染症蔓延時に備えた施設設計の在り方 ~仮設病院プロジェクト~
(株)内藤建築事務所HP
本社 企画部
国内においてCovid19の感染が拡大の兆しを見せ始めた2020年3月から、仮設病院建設にかかわるモデルプランや必要な法手続、建設費用、インフラ引き込み、医療機器等コスト試算、スケジュール、発注手続き等をワンパッケージの情報として提供するプロジェクトを開始した。この「仮設病院プロジェクト」で企画・検討され、この考え方に基づき実際に建設された施設の事例をここで紹介する。本プロジェクトで得られた知見は、今後のさらなる新興感染症蔓延時に備えた施設設計の在り方の基本となるものと考えている。
本プロジェクトで基本としているのは、グリーンゾーン、レッドゾーン、イエローゾーンを明確に区分し、医療従事者と物品の動線を一方方向とすることで、医療従事者の安全に配慮するという考え方である。感染症患者への絶え間ない医療を継続させるために最も重要な人的資源である、医療従事者を守ることに焦点を当て、各種動線と換気レベルの設定を行っている。
【事例1】大阪コロナ重症センター
敷地確保とインフラ整備
都心部の病院は敷地面積に余裕がなく、仮設病棟の建設敷地を確保するためには附属建物を撤去するなど、関係者の調整と相応の費用を要した。また、高機能な仮設建物を稼働させるインフラを本院から供給することは困難で、独立したインフラの新設が必要となった。今後整備する病院でこのような仮設建物を想定する場合には、敷地とインフラ確保の方針を明確にしておく必要がある。
スタッフゾーンのゾーニング
スタッフは、患者の治療に当たる時間よりスタッフステーションに留まって仕事をする時間が長く、スタッフステーションはグリーンゾーンであるべきである。それに伴って、防護服の着衣スペースと脱衣スペースをスタッフステーションの両サイドに設け、ワンウェイの動線を確保した。
仮設病棟運営の独立性
当初は大規模病院に隣接して小規模な仮設病棟を整備すれば、スタッフ、検査設備、物資など運営上の協力体制を取りやすいだろうと捉えていたが、30床規模であれば基本的には独立した運営を図るという方針となった。そのため、スタッフサポートユニット棟、CT棟、管理棟、設備ユニット棟の整備が必要となった。入院患者は別の医療機関からの直接搬送を前提としている。第1波の際は大阪急性期・総合医療センターの救命救急センターで重症患者を受け入れていたが、大阪コロナ重症センターの運用開始で当院の救急の独立性は保たれることとなった。
- 配置図
- 平面図
【事例2】埼玉県済生会栗橋病院 仮設病棟
主に中等症患者を対象とした70床の仮設病棟である。敷地は本院駐車場の一部を利用し、給水・排水設備や情報設備等のインフラは本院の既存設備を活用する計画とした。建物は病棟70床に加えて外来・CT・管理棟、設備棟、検査ドライブスルーで構成される。病院スタッフとのヒアリングを重ねた結果、グリーンエリアのスタッフステーションを中心としたワンウェイ動線かつ、病室への見通しを重視した病棟プランが採用された。入院患者エリアは男女分け等の理由からオープンベッドではなく個室と多床室の組合せによる計画としている。